キングダムネタバレ最新刊58巻

キングダムネタバレ最新刊58巻

キングダム最新刊58巻の収録話

最新刊 58巻

2020年06月19日

第625話矛盾の答え
第626話残酷な現実
第627話道の行方
第628話命の炎
第629話信の夢
第630話天地の間
第631話朱い階段
第632話再始動
第633話十の二
第634話戦略の破綻
第635話宝の山

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第625話 矛盾の答え

李牧本陣

李牧(りぼく)本陣近くで糸凌(しりょう)と馬呈(ばてい)が一騎討ちをする中、倉央(そうおう)はその隙に趙(ちょう)軍を押し込んでいた。

一方、田里弥(でんりみ)軍への合流に成功した王翦(おうせん)は、後ろから馬南慈(ばなんじ)軍が追ってきているものの、一先ず命の危機は脱していた。

田里弥から戦況の報告を受ける王翦。
王翦軍が足元まで迫っている中、飛信隊に気をとられ、李牧が未だ本陣に留まっていることに何かを感じとっていた。

対極の力

先程まで圧倒されていた信(しん)が、龐煖(ほうけん)と互角に打ち合っている姿を見た者たちは、敵味方関係なく驚愕を露わにしていた。

李牧はそんな戦いを見ながら「あれが龐煖の”対極にある”力であり、龐煖が理解できない力である」と語る。

龐煖の求める答え

何を言っているのか理解できないカイネたちに、李牧は龐煖の過去を話し出す。

「求道者(ぐどうしゃ)龐煖は、武神への道の極みに達したと悟り、その力を天に示すために山を降りた。しかし、十七年前”あの力”に出会ってしまった。」

それは龐煖が秦国六大将軍の一人・摎(きょう)を討ち、自身は王騎によって敗れたときのことだった。

「あの敗戦を龐煖は己がまだ未熟だった。武の極みに達していなかったと考えた。しかし、八年前の馬陽(ばよう)での再戦。そこでもまた龐煖は一人の力では王騎(おうき)に勝てなかった。」

馬陽での龐煖と王騎の戦いを見た李牧は、龐煖は未熟だったわけではなく、十七年前もすでに”人の極みに達していて”なお、王騎に敗れたのではないかと考えていた。

李牧の考えは矛盾しており、ますます理解できないカイネたち。
しかし李牧はそれを認めた上で「その矛盾こそが”答え”である」と語る。

信の力の源

一進一退の激しい戦いを繰り広げる信と龐煖。

その戦いに涙しながら、飛信隊の隊員たちが声援を送った瞬間、龐煖の連撃を受けきれず信は膝をついてしまう。

悲鳴交じりに信の名を呼ぶ渕(えん)副長。

その声に呼応するかのように信の強烈な一撃が繰り出され、なんとか受け止めた龐煖もまた、膝をついてしまう。

龐煖が膝をつくという衝撃的な光景を目の当たりにした者たちは、声を発することができずにいた。

しかし龐煖に膝をつかせた信もまた、強烈な一撃を繰り出した後、倒れ込んだまま立ち上がることができない。

信の名を力の限り叫ぶ飛信隊の隊員たち。 

その声に応えるかのように、再び立ち上がろうとする信を見てカイネたちは驚愕し言葉を失っていた。

そんなカイネたちに李牧が語る。

「個で武の結晶となった龐煖とは真逆…関わる人間達の思いを紡いで束にして戦う力です。」

ボロボロの身体で再び立ち上がった信の背後には、王騎や麃公(ひょうこう)ら味方のみならず、信と戦って敗れた敵の将までもが力を貸すかのように立ち並んでいた    

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第626話 残酷な現実

龐煖の刃

龐煖(ほうけん)が膝をついたことに皆が驚愕する中、信(しん)は誰かと話しているかのようにつぶやいていた。

朦朧とする意識の中、漂(ひょう)や尾到(びとう)、麃公(ひょうこう)将軍、王騎(おうき)将軍の匂いを感じていた信。

そしてその匂いは、信に力を与えていた。

「分かってる。みんなが…力を貸してくれてるのは、ちゃんと分かってるぜ、漂。」

信がいった。

「でも龐煖にはそれがねェ。それがねェから龐煖の刃は…痛ェだけで重くねェんだ。」

信は矛を振りかざし、再び龐煖に斬りかかる。

「お前の刃は重くねェんだよ!」

武神・龐煖

矛を弾き返し、信の言葉を否定する龐煖。

「何度も何度も同じことを。それがそもそもの誤りだと、その連なりこそが人を人に縛りつける鎖。その暗き鎖を打ち砕くのが我が刃。」

「我 龐煖」「我 ”武神”也」

しかし李牧は龐煖の言葉を否定する。

「龐煖が龐煖の言う武神であるならば、十七年前に王騎を両断している。合従軍の時、麃公に腕を折られる事もなければ、秦左翼の老兵如きに足を貫かれることなど有りはしない。」

李牧の言葉に驚くカイネは、まだその言葉の意味を理解できない。

「武の極みに立ちながらのその”矛盾”を気づかぬ龐煖に、麃公は阿呆と言った。その矛盾こそが龐煖がつきつけられた”答え”。」

「人を上の存在に引き上げるべく、超越者足らんとその力を天に示す龐煖が、正に”人の力”を体現する者達に”勝てぬ”という現実。」

「つまりそれは…”誰がどう足掻こうが人が人を越える存在には成り得ぬ”。”所詮人は人でしかないという”天からの残酷な”答え”です。」

勝負の行方

李牧の言葉に、龐煖が信に敗れるのかと尋ねるカイネ。

しかし李牧は「敗れるとまでは言っていない」と答える。

「龐煖が武の極みにいることは間違いありません。それに対し、人を超えんとする龐煖に命がけで”否”をつきつけるのが王騎であり麃公であり信です。しかし…正に命がけ。」

李牧の言葉にカイネが気づく。

「そう。先の王騎も麃公もその”否”の答えを示すところまでで力尽き、皆龐煖の刃の下に命を落としています。」

信の気配

さらに激しさを増す信と龐煖の戦いは一進一退の様相を見せていた。

しかし信の身体はすでに限界に達しており、目や耳からも血が出始めている。

意識の戻った羌瘣(きょうかい)は、ボロボロの状態で龐煖に向かって行く信の姿に、嫌な予感を抱いていた。

そして後方に待機していた河了貂(かりょうてん)もまた、信の姿は見えないものの、何か変な気配を感じ取り、那貴(なき)を連れて信の元へと向かった    

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第627話 道の行方

紅き大地

その刻、一気に日は夕日と変わり、この長き戦いの中でその赤土は最大限の色を発した

そして頭上の天のあまりの赤色に各所の戦士達は、一瞬なぜか止まり、寒気を感じた

十五日目の朱海平原での出来事であった    

河了貂(かりょうてん)が那貴(なき)と共に信(しん)の元へと向かっていた頃、信と龐煖(ほうけん)は一進一退の攻防を繰り広げていた。

既に身体は限界に達しており、朦朧とする意識の中で、信は仲間たちの声に応えるように立ち上がる。

「大丈夫。ちゃんと聞こえてるぜ、漂(ひょう)。分かってる。」

「”お前達”だけじゃない。俺には仲間が…。俺には生きてる仲間が大勢いる。大勢いるんだよ龐煖!」

龐煖の道

何度打倒しても立ち上がる信を前に、龐煖は戸惑っていた。

「なぜこんなことが起こる…。お前は…お前たちは何故我が刃に抗える…。道を極めし我が刃に…なぜ」

そのとき、龐煖の中にある一つの答えが浮かび上がる。

「道が…間違っていたとでも言うのか……」

「いや……そもそも道そのものが無かったのでは    
 人にそんな道など    

決着

しかし龐煖は、自分の道が間違っていないことを証明するため、再び信に向かって矛を振るう。

そして2人の矛がぶつかった瞬間。

龐煖の矛が砕け散った。

矛を振るった勢いのまま、信に背を向けた龐煖。

しかしその体勢のまま、王騎を討ったときのような突きを仕掛ける。

間一髪のところで龐煖の突きをかわす信。

そして遂に、信の振り上げた矛が龐煖の身体を両断した    

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第628話 命の炎

龐夫妻

朱海平原での戦いから遥か彼方    

山間の小さな村に、不思議な力を持った龐(ほう)夫妻がいた。

二人は流行り病に襲われた村を救い、それ以来、話を聞きつけてやってくる他集落の者たちのケガや病を、気功のようなもので治していた。

連れ去られた子供

龐夫妻には子供がおり、二人の子供ならさぞかし強い力を持っているだろうと、皆が楽しみにしていた。

そんな中、突然村に求道者と思われる大男が現れる。

大男は村人や夫妻を惨殺し、龐夫妻の子供を山へと連れ去った。

そして突然の凶行により致命傷を負った母は、連れ去られた子供の名前を呼びながら命を落とすのだった    

「煖(けん)…」

もう一つの道

舞台は再び朱海平原    

信(しん)が遂に龐煖(ほうけん)を討ち取ったことで、飛信隊は歓喜に包まれていた。

その喚声はその輪を一気に広め、正面側の王翦の元にまで伝わった。

一方、龐煖の戦いを見届けたカイネは李牧(りぼく)に尋ねる。

「龐煖様の人を越えんとする戦いが人を救うためだったとするなら、その龐煖様が敗れたということは、李牧様のおっしゃったように人は人でしかないという答え…つまり人は”救われぬ”ということなのですか?」

「そうです」

李牧が答える。

「今のところ”龐煖のやり方”では…無理だったということです…」

「龐煖様のやり方…では…?」

李牧の言葉が理解できないカイネが再び尋ねた。

「他の方法で人の世を救うと豪語する人間が西にいます。」

李牧の言葉に、カイネはようやくそれが秦王・嬴政(えいせい)のことだと気づく。

しかし李牧は、この中華を武力統一し、戦のない新世界を作ると言う嬴政の思想に対し、今度は我々が断固として”否”を突きつけると語り、そのためにも趙(ちょう)は敗れるわけにはいかないと、朱海平原の戦いを終わらせ、全軍に鄴(ぎょう)を解放しに行くと告げるのだった。

飛信隊の異変

撤退に動き出した李牧の首を狙い、秦国の各隊が後を追う。

しかしここで李牧を最も追いやすい秦右翼の主力である飛信隊にも異変が起きていた。

李牧の首を狙わんと動き出した飛信隊の隊員が、信に声をかけるが返事はない。

信の様子を不思議に思い、顔を覗き込んだ隊員は驚き、腰を抜かしてしまう。

そして涙を流しながら信の方へと手を伸ばす羌瘣(きょうかい)がいった。

「尽きていたんだ…」

何をいっているのか理解できない飛信隊の隊員たち。

「ずっと前から…もう…とっくに…信(あいつ)の…命の火は…消えていた…」

まるで糸が切れたかのように、信がその場に倒れ込んだ    

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第629話 信の夢

脱出する李牧

信(しん)が龐煖(ほうけん)を討ち取ったことで脱出に動く李牧(りぼく)。

その様子を見ていた王翦(おうせん)に、田里弥(でんりみ)が戦況を説明する。

「我々の総攻撃を止めるのに、李牧も総力を挙げています。故にあの背後に李牧を守る遊軍はおりません。私の小隊が複数すでに裏に回っておりますので、それが李牧の首を。」

「仮に李牧を逃がす隊が多少隠してあったとしても、すぐ裏に回り込める右翼の大隊がそれごと握り潰します。大功を我が軍外部の飛信隊に挙げられるのは少々癪ですが…」

しかしここで王翦が異変に気づく。

飛信隊が李牧を追っていなかったのである    

悲痛な叫び

倒れ込んだ信の周りには飛信隊の隊員が集まり、懸命に声をかけていた。

しかし信はピクリとも動かない。

崇原(すうげん)が確認したときには心臓は動いておらず、身体も冷たくなっていた。

信が死んでしまった…。

飛信隊の誰もがその事実を受け入れられず、絶句する者やその場に倒れ込む者、大声をあげる者など、さまざまな姿が見られた。

信の夢

信の元へとやってきた河了貂(かりょうてん)が声をかける。

「早く起きないと全部終わっちゃうよ?飛信隊も信の夢も」

「ここまでこんなに頑張ってきたじゃんか。みんなもずっと応援してきたんだよ。いっぱい死んで…辛いことがいっぱいあって…。それでもみんな信のことが好きで…信の夢をかなえようと、一緒にかなえようって。命がけで…」

「だから起きないと、信」

「だって…なってないじゃん…」

「まだ天下の大将軍になってないじゃん!信っ」

しかし貂の声も信には届かない。

そして飛信隊の隊員たちも、ただ信の名を叫ぶことしかできずにいた。

皆が悲嘆に暮れる中、覚悟を決めたような表情で羌瘣(きょうかい)が信の傍らに立った    

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第630話 天地の間

禁術

李牧を追わない飛信隊の元へ向かった蒙恬(もうてん)たちは、隊員たちの様子がおかしいことに気づく。

そして「まさか…」と思いつつ、人だかりができている場所へと馬を走らせた。

一方、嘆き悲しむ飛信隊の輪の中へやってきた羌瘣(きょうかい)は、「私が…助ける…!」と信(しん)の傍らに座った。信の胸に手を置き、呼吸を整え始める羌瘣。

しかし羌瘣の言葉を信じられない貂(てん)が尋ねる。

「何をしようとしてるの、羌瘣」

「千年続く蚩尤(しゆう)族には、うろ覚えだがいくつか”禁術”がある」

羌瘣が答えた。

「その中には…命の力を分け与える術が…」

「そ…それで信が生き返るの!?」

「分からん。やったこともないし…呪文も覚えていない」

「え?」

「とにかく思い出しながらでもやるしかない。これしか手は…」

羌瘣は再び呼吸を整え始めた。

象姉の嘘

死んでしまった鳥に”禁術”を使おうとしたときのことを思い出す羌瘣。

そして象姉(しょうねえ)の言葉を思い出す。

「死んだやつを生き返らせる術なんて、この世には存在しないってさ」

はっとした。

「死んだものは生き返らない」

羌瘣の目から涙が溢れてくる。

しかしそんなはずはないと、さらに詳しく過去を思い出そうとする羌瘣は、象姉が嘘をついていたことに気づく。

「とにかくそれは忘れな。使った奴に”最悪のこと”が起こるんだ」

いつか”禁術”を使った羌瘣の身に”最悪のこと”が起こらないように象姉がついた嘘。

しかし命を失った信を前に、”これ”以上に最悪なことはないと”禁術”を使う羌瘣であった。

幽連と象姉

“禁術”により信と気の道が繋がったことを確認した羌瘣は、変化があったら皆で信を呼んでと言い残し、意識を失った。

真っ白な何もない世界に立つ羌瘣。

そこに突然、幽連(ゆうれん)が現れる。しかし姿こそ幽連であるものの気配は全く違う。

困惑している羌瘣に幽連がいった。

「ここが天地の間(はざま)の門戸だ。ここより先に行くには、お前の命    。「寿命」をいくつかもらう」

「そしてそれはお前が決めろ」

何が起こっているのか分からず困惑する羌瘣。

そこに象姉が現れる。

「そういう術なんだ。お前の寿命を減らすことでしかあの男は救えない。この術は命を使わないと発動しない。」

嘲笑うかのように幽連が続ける。

「しかもかなり分が悪いぞ。死んですぐなら術者の半分の寿命を使い二つに一つで生き返る。」

「だがあの男はもう間の世界の奥深くまで行ってしまっている。呼び戻すにはたとえ寿命の半分を使っても”十に一つくらい”だろうな。」

羌瘣の願い

「だからやめときな、羌瘣!このままお前だけ戻れ」

象が声をかける。

しかし羌瘣は「そんなの即決だ」といい答える。

「全部やる」

その答えに驚愕する幽連と象姉を前に、「どうしても死なせたくない、信を。私の命全部やるからあいつを助けにいかせてくれ」と微笑むように語る羌瘣。

「バカが。行ってそのまま死んでこい」

幽連がそういった瞬間、羌瘣は別の場所へと送られた。

目を覚ました羌瘣がいたのは、先程とは違い真っ暗な場所だった。

そして信の後姿を見つけた羌瘣が声をかける    

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第631話 朱い階段

階段

信(しん)を呼び戻すため、”禁術”によって天地の間(はざま)へと辿り着いた羌瘣(きょうかい)。

そこには信の姿もあった。

羌瘣が信に呼びかける。

「待てっ!そっちに行くな、信」

しかし信には届かない。目の前にある朱い階段へと向かって歩く信。

「だっ、ダメだ、信!その階段を上ったら、本当に戻れなくなる」

なんとか止めようと、信の元へ駆け寄ろうとする羌瘣だったが、いつの間にか沼のようなものに捕らえられている。

案内役

涙ながらに信を引き留めようと声を上げる羌瘣。しかしその声は信には届かない。

そしてついに信の足が階段へと差し掛かった瞬間    

何かに呼ばれたような気配を感じ、信が振り返った。

「あれ?何か呼ばれた気がしたけど…」

信の目に羌瘣の姿は見えていない。

「ま、いっか」

再び信が階段を上ろうとしたそのとき、信の前に漂(ひょう)が現れた。

なぜここに漂がいるのかと困惑する信。

しかし漂は案内だと告げ、信と共に階段へ向かって歩き出す。

何とかして追いかけようと足掻く羌瘣だったが、沼によって力を吸い取られていく感覚に、命が吸われているのだと気づく。

「ふざけるな!」

命を吸われる前に信を飛信隊(みんな)の元へ連れ戻すんだと、羌瘣は懸命に信の後を追いかけた。

昔話

信と漂は昔話をしながら階段へと向かって歩いていた。

「……それで?オレが死んだ後は何があった?」

漂が信に尋ねる。

「戦場行ったよ。戦場。俺、けっこう活躍したんだぜ、漂。つえー敵をいっぱい倒したぜ」

「本当に活躍したからよ、自分の隊とか持ったんだぜ。信じられるか、漂。千人とかいたんだぞ」

「……何て名の隊だ?」

「え……」

重要な記憶だけが抜け落ちているかのように、信は答えることができない。

「他に何か話すことはないか、信」

信が記憶を取り戻すのを手助けするかのように、漂が質問を続ける。

しかし話題が秦王の話になった途端、またしても抜け落ちたように記憶は無くなっていた。

「…じゃあ、行くか…階段が消える前に」

漂がいった。

「ああ。でも、何か…一番でけーの忘れてる気がするんだよなー」

なんとか思い出そうと考え込む信がいった。

「ユメ…」

「夢?」

信が自分で思い出すことを促すように、漂が続ける。

しかし結局思い出すことはできず、諦めて階段へと向かう信。

階段に足をかけようとした瞬間    

信の身体はそれを拒むかのように動きを止めていた。

何が起こっているのか分からず困惑する信だったが、その身体には信の目には映らない羌瘣が階段を上らせまいと必死にしがみついていた。

限界を迎えた身体は小刻みに震え、息も絶え絶えの中、羌瘣が叫んだ。

「お前の隊の名前は飛信隊だっ!忘れるなバカ」

天下の大将軍

「そしてお前の夢は…」

そのとき、漂が羌瘣の口を塞いだ。

「それは自分で思い出さないといけないんだ」

階段を上ろうと踏み出していた足を戻し、信がいう。

「わりー漂。まだ…お前達の所には行けねーや」

「……何でだ?」

「決まってるだろ」

「二人の夢だった天下の大将軍にまだなってねー!」

「ああ。そうだったな」

そのとき信の傍らに光の穴ができた。

「じゃあ今すぐその光の穴から向こうへ行け。それで”戻れる”」

本当に上手くいったんだと喜ぶ羌瘣。

そして漂は「羌瘣、俺は役割を制限されていた。本当にありがとう。」と言い残し、姿を消すのだった。

漂がいきなり消えたことに驚く信だが、すぐそばに羌瘣がいたことに気づく。

信を自力では立ち上がれない羌瘣は信に起こしてもらい、涙を流しながらぎゅっと抱きしめる。

そして「頑張れ」といい、信を光の穴へ押し出した。

信を無事に送り返し、安堵した羌瘣は力尽き倒れ、沼に沈んでしまう。

しかし沈み切る直前、二人の男が羌瘣の身体を沼から引きずりだした。

その二人の男とは、少し前に命を落とした松左(しょうさ)と去亥(きょがい)だった。

二人はギリギリ間に合ったことを喜びながら「うちらの大将頼んだぞ」と羌瘣を光の穴へと放り投げた。

一方、”禁術”を使った羌瘣から信に呼びかけろと言われた飛信隊の面々は、必死に信の名を叫び続けていた。

涙を流しながら信の名を呼び続けていたところ、突然、信がひょこっと身体を起こす。

一瞬何が起こったのか分からず、思わず自身の槍を放り出すほどに驚愕する飛信隊の隊員たち。

しかし信が戻ってきたことを理解し、涙を流しながら信の名を呼ぶのだった    

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第632話 再始動

羌瘣

羌瘣(きょうかい)の導きにより蘇生した信(しん)。

信じられない出来事に、一瞬唖然とする飛信隊の隊員たちだったが、信の復活に皆が涙を流し、喜びの声を上げている。

喜んだ隊員たちが抱きつく中、信の目には傍らに倒れている羌瘣の姿が映っていた    

羌瘣は真っ白な世界の中を、どこに行けば良いのかわからず彷徨っていた。

そして象姉(しょうねえ)と再び出会う。

禁術の代償

信の事を話始める2人。

「そんなに命がけで男を好きになることがあるんだね。しかもあの瘣が」

「え?」

好きというのがあまりピンと来ていない羌瘣。

「ピンとこないなら”気になる”でいいよ。いつからそんな感じだったの?」

「え…気になる?いつから…?」

またしてもピンと来ていない羌瘣が考え込む。そしてしばらく沈黙だ続いた後、ようやく羌瘣が口を開いた。

「それは割と会ってすぐくらいからだったかも」

「えっ」

「……多分。よく分からないけど…」

羌瘣の話を嬉しそうに聞く象姉。しかし2人に残された時間は少ないと、一度きちんと座り直すよう羌瘣にいった。

「戻る前に大事なことを伝えておきます」

象姉がしゃべり始めた。

「悪いこと一つと、おまけでいいこと二つ」

「はい」

「では悪いこと一つは…やっぱりあんたの寿命が縮んでしまった。この禁術を使った代償としては仕方のないことよ。むしろ間(はざま)にとどまっていた仲間のおかげでたまたま戻れる幸運に感謝しなさい」

「それと命の炎が弱くなるから、もう二度とこの禁術は使えません。他の術も使えないか、弱くなったかもしれない。」

 「はい」

「後悔してる?」

「全く」

「よし、じゃあ…」

羌瘣の身体がだんだんと薄くなり始めた。

「そろそろ時間みたい」

象姉は羌瘣の手を取って続ける。

「逆に二つのいいことっていうのはね    

全軍撤退

目覚めた羌瘣が目にしたのは、自分を覗き込んでいる信たちの姿だった。

目覚めた羌瘣を抱き抱え、感謝を伝える信。

そこへ蒙恬(もうてん)と王賁(おうほん)がやってきた。

「ハイハイ。おとりこみ中悪いけど、そんなのんびりしてる戦局ではないよ。飛信隊    

蒙恬がいった。

信と羌瘣の無事な姿を見て安堵した貂(てん)が、ようやく部隊に指示を出す。

信の復活に勢いを取り戻した飛信隊は、あっという間に李牧を追う準備を整える。

そんな中、信は蒙恬に戦局を尋ねる。

「……そうだな。まずは…何より、李牧に逃げられたっぽい」

「えっ!?」

驚く信をよそに蒙恬は説明を続ける。

「王翦軍は李牧を本陣ごと討とうと狙っていたが、その前に李牧は脱出。李牧本陣は倉央軍が攻め上がり占拠。今その倉央軍も李牧を追って走っている。お前たちと一緒にいた亜花錦(あかきん)軍がイチ早く李牧を追っていたが、それもまだ吉報は届いていない。」

自分のせいで李牧に逃げられたと知り、悔しがる信に、蒙恬は「そうとも思わない」という。

「李牧はギリギリまで本陣を離れず、信と龐煖(ほうけん)の一騎討ちを見届けていた。そこから飛信隊に追われても逃げ切れる自信があったんだろう。」

「李牧が退散したあと、残された趙軍も各所で一斉に退却の動きを見せている」

「各所って…」

貂が蒙恬に尋ねる。

「趙左翼は馬南慈(ばなんじ)を、中央軍は雷伯(らいはく)を中心にして乱戦を解きながら、すでに半数以上がこの戦場を離れた」

「趙右翼。つまり紀彗(きすい)軍は俺の楽華隊(がくかたい)の追撃を受けながら、わざと中央にまで流れ込んできて、かすめて走っていった。もちろん趙中央軍が退きやすくするための援護だ」

「ちょっと待って!左右中央ってことはじゃあ…」

「趙軍の”全軍退却”だ」

朱海平原の戦い

朱海平原の戦いから撤退した李牧は、散開した群を再結集しながら鄴(ぎょう)へ向かっていた。

信は「すぐに追わないと」と焦るが、 蒙恬は「追うこちら側ももうすぐ王翦将軍の号令がかかるはずだ。戦略的にどう追うか」といい、信に向かって「一回ここで喜んどこーか」と笑みを向けた。

そして「十五日に及んだ朱海平原の戦いは俺達の勝利だ!」というと、まるでその言葉に呼応するかのように、秦軍の歓声が響き渡るのであった    

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第633話 十の二

暴動

食料が底を尽きたことで、鄴(ぎょう)では民衆たちによる暴動が起こっていた。

鄴を囲む桓騎(かんき)軍がそれに気づかないはずもなく「一般人を殺さぬ。城を明け渡せ」と、中の人たちに向けて呼びかける。

そんな桓騎軍の呼びかけに壁内の混乱は増し、ついには煙が上がり始めた。

その様子を静かに見守っていた桓騎は「いよいよだな」と、ゼノウ一家を呼びに行かせる。

しかしその時、桓騎の元に早馬(はやうま)で伝令が届いた。

「李牧軍だ!李牧軍が南下して、ここへ向かって来てるそうだ!」

李牧軍を追いかける

下手をすれば半日で李牧軍が到着するという状況に「朱海平原の戦いはどうなったのか」と焦る魔論(まろん)だが、桓騎は動じることなくただ状況を見守っていた。

そこへ再び早馬で伝令が届く。

「李牧軍の後ろから…王翦(おうせん)軍も追って…もの凄い勢いで南下して来ていると    

精鋭部隊

一日前、朱海平原    

田里弥(でんりみ)が李牧軍を追うために軍を十の二にすると伝えていた。

「”十の二”って一体…」

作戦が理解できない信(しん)に貂(てん)がいった。

「分かりやすく言うと十人のうち二人が李牧を追って、八人はここに残るってこと…」

そしてこの再編成の理由を田里弥が説明する。

「理由は二つある。一つは速さだ。この十五日間の戦いで多くが傷つき、全体で追うには速さが伴わぬ。最も動ける者を選抜し、精鋭にして李牧を追う」

「二つ目は兵糧だ。もはや皆を食わせる分は残っていない。残りをかき集め、この選抜隊に与え体力・気力を回復させ、ここからさらに追撃戦を遂行してもらう」

精鋭軍の主体となるのは田里弥軍と創央(そうおう)軍で、ボロボロの尾平たちが行かなくて済むと考えた瞬間。「飛信(ひしん)隊も行くぞ」と信は田里弥に食って掛かっていた。

しかし田里弥たちもまた、李牧軍を肌で分かっている両翼の軍を連れて行こうと考えており、追撃隊に入る精兵たちを選ぶよう、改めて飛信隊・楽華(がくか)隊・玉鳳(ぎょくほう)隊に指示を出した。

残る者たち

「田里弥将軍。残った者たちはどうするのですか?」

蒙恬が尋ねる。

「追撃隊もきついが、ここに置き去りになる者たちの方がもっと過酷になると思われるが」

「今さら秦兵がこの地で過酷ではないことなどあると思うのか。楽華隊・蒙恬」

田里弥が答える。

しかし田里弥は「さしあたってこの残軍を襲う趙軍はおらず、問題は食糧だけだ」と語り、「ここはいずれ秦の領土となる地だ。考えなしの愚行はおかさぬ」と続けた。

そして残軍は田里弥が率いると聞き、その言葉に納得した蒙恬は、多くの兵が残る楽華隊のことを任せるのだった。

一方、飛信隊も部隊編成を行い、を渕(えん)や歩兵部隊が残ることになった。互いの無事を祈る飛信隊の隊員たち。

そこに王翦が姿を見せる。

「準備は出来たか」

王翦の号令に従い、選抜隊は鄴へと向かうのだった    

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第634話 戦略の破綻

鄴の限界

鄴(ぎょう)へと急ぐ李牧(りぼく)軍に、王翦(おうせん)率いる秦国軍が追いついた。

あまりの速さに動揺する趙軍の兵士たち。

しかしここでも李牧は、王翦が追いつくために兵の数をしぼったことに気づいていた。

兵力は李牧軍が大きく上回っている。にもかかわらず李牧は足を止めようとはしない。

「もう…十七日目です。鄴の限界がきてもおかしくない」

李牧がいった。

そしてどうか我々が着くまで何とか持ちこたえてくださいと願いながら、鄴へと馬を走らせるのだった    

一方、鄴城内では各門の前に集まった民衆と兵との間に争いが起こっていた。

その知らせを聞いた鄴城主の趙李伯(ちょうきはく)は、止むを得ず武力によって全ての城門を守るようにと将軍に伝令を飛ばす。

しかしその間にも食料を探す民衆が貴族の屋敷に火を放つなど、刻一刻と悪化の一途を辿っていた。

追撃

十六日目の時点で、走り続ければ鄴までおよそ半日のところまで来ていた李牧軍。

しかし後ろからくらいついてくる王翦軍が原因で南下の速度が鈍っていた。

捨て駒である殿(しんがり)隊で受け止めつつ先を急ぎたい李牧だったが、王翦軍の主攻である倉央(そうおう)と糸凌(しりょう)が度々、殿の隙間を抜き李牧軍の心臓部を脅かす動きを見せるために、足を止めて対処せねばならなかった。

いくら大軍の李牧軍とはいえ、ここで大打撃を受けては鄴に着いても桓騎(かんき)軍を破ることが出来なくなるためだ。

「全軍進行停止!広失(こうしつ)の陣で王翦軍を包囲し殲滅せよ」

李牧軍がいきなりひるがえり、倉央隊など中に入り過ぎた敵を包囲し、これを討ちに出る。

この李牧の反転包囲戦にはまった一部の王翦軍はひとたまりもなく討ち取られたものの、王翦軍に大打撃を与えるところまではいかない。

この王翦軍と李牧軍の戦(や)り合いは繰り返され、結局李牧は鄴に着かずに十七日目の夜を迎えてしまう。

李牧軍の到着

しかしその夜、李牧軍は大規模な夜襲を仕掛け、王翦軍は後退を余儀なくされる。

一方で李牧の主力部隊はこの夜襲に加わらず、ひそかに動き鄴を目指していた。

そして十八日目の日の出と共に、李牧たちは遂に鄴に到着した。

未だ城門は破られていないことに安堵する李牧軍。

そしてそのまま桓騎軍に奇襲を仕掛けようとしたその時    

眼前に雷土(らいど)とゼノウ率いる桓騎軍が現れた。

李牧の誤算

本軍を待つ猶予はないと、力技で突破しようとする李牧。

しかし万全の状態で待ち構えていた桓騎軍に対し、疲弊した軍では抜くことはできない。

そしてその様子を見ていた王翦が語り始める。

「朱海平原で我らを滅してから、南下して鄴を開放する。その戦略は、前半で失敗した時点でそもそももう破綻しているのだ。」

「ではなぜ李牧は朱海平原で勝てなかったのか」王翦が部下の将たちに問う。

「王翦様の方が李牧よりも才覚が勝っていたからです」と答える将に対し、「違う」という王翦。

「李牧と俺の軍略はほぼ互角であったと見る。むしろ先に亜光(あこう)と麻鉱(まこう)を失った戦局を見ると、鋭さは奴の方が一枚上手であった。」

「では何が…」

困惑する将たちに王翦がいった。

「”手駒”の差だ」

要であった尭雲(ぎょううん)・趙峩龍(ちょうがりゅう)を失った李牧軍に対し、王翦軍は先に麻鉱、次いで亜光が退場した。しかしそこから蒙恬(もうてん)・王賁(おうほん)・信(しん)という若き3人の将が台頭したことで、軍の力は失墜するどころか結果神懸かった粘りと強さを見せた。

「あの三人の戦いぶりが李牧の描いた戦いの絵を大きく狂わせたことは間違いない。」

そして李牧軍と桓騎軍が激しくぶつかり合う中、ついに鄴の城門が開かれた    

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第635話 宝の山

鄴開門

暴動を起こした民の手により、ついに鄴(ぎょう)の城門が開かれた。

一気に民衆が城の外へと溢れ出す。

その様子を嘲笑うかのように、高笑いしながら見ていた桓騎(かんき)軍は、中へ突入する準備を着々と整えていた。

一方鄴の城内では、兵を指揮していた趙将・胡呂(ころ)が、難民を全員外に出し、入れ違いで入ってくるであろう桓騎軍を返り討ちにするよう指示を出す。

しかしそんな思惑をよそにゼノウ一家が城内へと侵入を果たした。

陥落

凄まじい暴威をふるうゼノウ一家。

混乱した鄴の守備軍は次々と討ち取られ、趙軍はいとも簡単に桓騎軍の侵入を許してしまう。

元盗賊団の集合体である桓騎軍は、巨大な城塞都市である鄴に入城してさらに士気が爆発し、守備軍を一蹴。

財宝を求めて奥の貴士族の居住区へと突進した。

一方、李牧(りぼく)たちは鄴へなだれ込む桓騎軍の姿を外から眺めることしかできなかった。

目の前の雷土(らいど)軍を突破し鄴を救う力をもはや残していなかったのだ。

何よりここまで来て、目の前で城門が開かれてしまったことで、完全に士気の火が消えてしまっていたのだった。

李牧軍の撤退

城を預かる趙李伯(ちょうりはく)が、趙の生命線でもある鄴を陥とされたことを悔やみながら自らの命を絶った頃、李牧軍は桓騎軍との戦いを止め、溢れ出た難民らと一緒に鄴を離れた。

つまり鄴が陥落したのである。

兵糧の行方

桓騎の元に王翦(おうせん)が来る。

「思ったより遅かったな」

桓騎がいった。

「やはりそう容易い相手ではなかった」

「みたいだな。お前らの兵も大分くたびれてやがる」

「我ら(王翦軍)も入るぞ。中へ」

「ああ、構わんぜ。もうそろそろ中の大まかな”掃除”は終わってる頃だ。だがやっぱり中には、いま俺たちが”一番欲しいもの”はほとんど残ってなかったみたいだぜ?」

「そうであろうな。李牧が早々に一度離れたのもそのせいだ」

王翦の言葉を聞き、桓騎が舌打ちをした    

選抜隊の一員として従軍していた飛信(ひしん)隊の隊員たちは、勝利したことに歓喜していた。

しかし王賁(おうほん)と蒙恬(もうてん)から、鄴の場内には食糧がないことを聞かされ、呆然としてしまう。

「こうなることは王翦将軍が一番分かっていたはずだ。ってことは何か手が…」

貂(てん)がいった。

しかし蒙恬は「俺も王賁も、もちろんあると願いたい」といいながらも、「どう考えても籠城し、この軍を食わせる程の食糧を手にすることは不可能としか思えない」といい表情を曇らせた。

しかし…王翦はこの食糧問題を驚くべき方法で解決する    

『キングダム』58巻 / おわり

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※ 本ページの情報は2020年5月時点のものです。

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